黒岩重吾、休日の断崖。文庫本は昭和41年発行。書いたのは前年くらいかなあ。自分が多分いちばん好きな文体の頃。この人を文章下手呼ばわりするけど(愛情をこめて)、この頃はそういうのを完全に跳ね返す情緒がある。さすがだ。そして水商売の女性に取り囲まれる40半ばの男を出しておいて、女性たちを放って会いに行くのは、親友と言うような表現をされる30半ばの男(社会的地位には相当開きがある)。愛してるってはっきり書いてあって突然でビビった。もう会う流れから妙に色っぽいのに、率直に愛してるとか書いてあって、何だこのBL小説はようって、思わず表紙を見返した件。もう典型的な、同性間では情交を結べないからそこは女性ですることにして、そういう部分を通して愛情を共有する完全疑似同性愛。男性作家って時々こういうのを素でぶっ込んで来るからいいぞもっとやれ。これを素直に同性愛として描く高村薫の率直さよ(描けるのは彼女が女性だからなんだろうなあ)。
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